3年で売上10倍!過熱する「マウスピース矯正」市場で、Oh my teethが成長しているワケ:未来の歯科体験 | ITmedia ビジネスオンライン
「費用が高い」「食べづらい」「通院が面倒くさい」など、デメリットが目立っていた歯科矯正市場が近年、様変わりしている。新たなトレンドとして認知され始めたマウスピース矯正が、「安い」「目立たない」「通院が少ない」などをウリ文句に、市場規模を急拡大しているのだ。
オー・マイ・ティースが提供する「通わないマウスピース矯正」は、2019年から3年間で売り上げが10倍に

今や、あらゆる歯科クリニックでマウスピース矯正が提供されているほど。厚生労働省「患者調査」によれば、2020年の1日当たりの歯科矯正の初診患者数は2900人(男性500人、女性2400人)だった。17年の800人(男性300人、女性500人)から3倍以上に成長しており、特に女性の伸びが著しい。
そんな市場で急成長している1社が19年創業の「Oh my teeth」(オー・マイ・ティース)だ。「通わないマウスピース矯正」をキーワードに男性中心にユーザーを増やし、創業から3年で売り上げは10倍になった。同社を共同創業したCEOの西野 誠氏に「急成長の要因」を聞いた。
ITで実現した「未来の歯科体験」
「オー・マイ・ティースが提供したいのは未来の歯科体験だ」と西野氏は言う。エンジニア出身の彼は、予約しても待たされる、現金しか使えない、何度も通う必要があるといった従来の歯科治療に不満を抱いていた。それならITを使って歯科体験をアップデートすればいいと考え、誕生したのが「通わないマウスピース矯正」だ。
初診で口腔内の3Dスキャン、レントゲン撮影を行い、「矯正OK」と診断されたら、マウスピース一式を含む矯正キットが自宅に届く

同社が提供するのはD2Cの歯科矯正サービスで、上下前歯の部分矯正(33万円)、あるいは奥歯まで治す全体矯正(66万円)の2種類となる。東京と大阪に計5カ所の導入クリニックがあり、医療行為は導入クリニックの歯科医師が手掛ける。
歯科矯正サービスの基盤となる予約、問診、決済、電子カルテの開発やマウスピース製造などを請け負うのは、オー・マイ・ティース。それら一式をクリニックに導入するビジネスモデルだ。
西野氏いわく、従来のマウスピース矯正は定期検診だけで合計18回ほど通院するのに対し、オー・マイ・ティースは平均1~2回。歯の隙間を作る研磨など前処置が必要な場合は再診しなければならないが、ほぼ通わずに矯正が完了する。この「歯科矯正マウスピース配送手配システム」は特許を取得済だ。
初診後すぐに診断結果(写真左)が届く。矯正後のシミュレーション(右)を確認して矯正スタートとなる(筆者撮影)

独自開発の撮影アプリを使って1週間ごとに歯の写真を撮影、LINE上で医師が確認する(筆者撮影)

このシステムを実現した背景に、テクノロジーの数々がある。高性能の3Dスキャンに自社の撮影アプリなどを使い、ユーザーとのやり取りをLINEに集約。マウスピース矯正は毎日20時間以上の装着が求められるのだが、ユーザーが挫折しないよう“矯正版ライザップ”かのように毎日リマインドする。
今回1週間の矯正を体験したところ、飲食のたびにマウスピースを取り外すのは面倒ではあるが、通院不要のアドバンテージは大きいだろうと感じた。
競合と棲み分けて、戦わない
マウスピース矯正の認知が進み、「マウスピース矯正」というワードの検索ボリュームは、ここ10年で約6倍にアップ。検索してみると広告やおすすめがズラリと並び、カオス状態だった。
オー・マイ・ティースによる「マウスピース矯正ブランド年表」によると、19年から参入企業が急増している(オー・マイ・ティースのプレスリリースより)

オー・マイ・ティースの「通院不要」は魅力だが、他社もまた「安い」「目立たない」「通院が少ない」などとうたって集客しているわけで、どのように競合と差別化しているのか。
「競合とは、棲(す)み分けて戦わない選択肢を取っています。一見すると似たようなサービスかもしれませんが、大手のA社は100万円近くかかる全体矯正がメイン。導入する歯科クリニックによって価格はバラバラ。コストがかかっても高品質な施術を受けたい人が向いています。
対して、当社は33万円の部分矯正が9割を占めます。シンプルな価格設定も意識していて、追加料金やオプションの提案もありません」(西野氏)
1994年生まれ、エンジニア出身のCEO 西野 誠氏

オー・マイ・ティースが注力しているのは、「歯並びが気になるけれど歯医者に通うほどでもない」と思っている層。矯正への関心が強く、予算に余裕がある人は他社に任せ、歯科矯正のハードルを極限まで下げて潜在層を掘り起こしているのだ。
競合他社との棲み分けは分かりづらいが、調べてみるとオー・マイ・ティースよりもシステムが複雑なところが多い。初診・再診料やリテーナー(保定装置)の料金が別途発生する、カウンセリングに2万~3万円かかるなど、最終的なコストが不透明。そういった不安要素を極力省くのも、オー・マイ・ティースの差別化ポイントというわけだ。
なぜ男性ユーザーに選ばれるのか
19年の創業からオー・マイ・ティースは成長を続けている。22年の伸びは顕著で、売り上げが前年比354%となった。市場全体では女性ユーザーが多いと予想されるが、同社は6~7割が男性ユーザーである点も興味深い。
競合2社のWebサイトを見ると、女性モデルを押し出してPRしているのに対し、オー・マイ・ティースは男性モデルの露出が目立つ。
3ヵ月のマウスピース矯正(33万円)のビフォー・アフター

「Webサイトなどでの見せ方はユニセックスを意識していますが、初期は20代前半の女性がメインターゲットでした。しかし、『通わずに矯正できる』と打ち出して興味を示したのは男性ばかり。初期はほとんど男性ユーザーでした」(西野氏)
男性ユーザーに選ばれやすい理由として、「効率重視、かつゲーム感覚で進ちょく管理できる体験設計などがマッチしたのではないか」と西野氏は話した。男性ユーザー数は20年から22年で3倍以上に伸びており、その多くが「紹介」によるものだ。
矯正中は毎日LINEでリマインドやメッセージが届き、進捗確認ができる

「特に同僚からの紹介が目立ちます。メンズ脱毛などもそうだと思うのですが、周囲にチラホラとマウスピース矯正を始める人が増えてきて、連鎖的に広がっている印象です」(西野氏)
地方在住者や60歳以上の高齢者の反響も想定以上だった。現在、約4割のユーザーは東京と大阪以外の地域に在住しており、出張のついでに来店する人も多い。高齢者のユーザーは20年から22年で4.8倍に増えた。「通えない」とか「この歳で今さら」とか言い訳してあきらめていた人たちが、通わなくていい気軽さから行動を起こしたわけだ。
店舗を増やさず、ユーザーを増やす
新規プレーヤーが続々参入し、今やレッドオーシャンといえるマウスピース矯正市場。そんな状況の中で、店舗数(5店舗)が少ないことは、同社の弱点ではないのか。「これまでは店舗数の拡大を目指していたが、店舗数を増やさずとも新規ユーザーを増やせると考えが変わった」と西野氏はいう。
オー・マイ・ティースの導入クリニックは東京に4店舗、大阪に1店舗ある

「一般的な歯科クリニック経由でマウスピース矯正を提供する他社とは異なり、当社の製品を導入しているクリニックは、当社のマウスピース矯正だけを専門に扱っていて、歯科治療を提供していません。初診が30分と短時間で原則通院不要のため、新規ユーザーの枠を多く確保できます。一般的な歯科クリニックと比較して商圏も広く、全国から来店があります」(西野氏)
現在の課題は、店舗拡大よりも認知率の低さや認知の曖昧さだという。
「現状、当社のシェアはマウスピース矯正全体の1%ほどです。23年中に10%を目指していますが、それを実現するには認知が足りていません。知っていても『失敗しそう』『何だか怪しい』など、踏み出すための安心材料も不足しています。
例えば、『マウスピース矯正で老け顔になる』といったネガティブな検索は多いのですが、実際ミスリードであることが多いんです。実績を積み重ね、消費者が本当に求めている正しい情報を地道に伝えていきます」(西野氏)
これは筆者の感覚だが、「歯並びが気になるけれど通うほどでもない」と思っている人にとって33万円は安くない。効果に不安があれば、余計に決意が固まらないだろう。さらに価格が下がる、あるいは「身近で矯正する人が増えたな」と感じるぐらい浸透すれば、一気に市場が広がるのかもしれない。
写真提供:Oh my teeth